カウンセリング体験記5

前回は、初めて催眠をかけて状態で絵を描いた時、“無意識”が絵を描きたくなくてふて腐れていたことを書いた。今回は、その次のカウンセリングの日のこと。
この時のことに関しては、前に書いた文章が残っているのでそれを写しつつ、少し詳しく書く。

vol.7 <『無意識くん』なぐり描きを楽しむ>
催眠2回目は、前回の反省から、J先生には特に教示などしないで無意識に自由にさせてやってほしいとお願いして、催眠をかけてもらいました。
目を閉じて催眠状態になった私に見えたのは、こんな光景。
砂漠のようなというか、平らなグランドキャニオンのような赤土の荒野というか、そんな平原の上を飛んで行く。遠くに、海に突き出した絶壁の岬のような形の、山だか岩だかが見える。飛びながらその“山”に近づいて行くと、“岬の先っぽ”の位置に洞窟のような横穴がある。その横穴の入り口に降り立った。その狭い横穴を四つ這いで奥に進んで行くと、途中から穴は下に向かっていて、梯子がかかっている。方向転換して梯子を下りていく。
催眠状態で“梯子を下りていく”間、私の手は梯子を下りるパントマイムのように動いていました。勝手に。私の意識は、
「手が動いている様子を見て、J先生は不思議に思っているだろうなぁ。催眠から覚めたら説明しなくちゃ」
などと思っていたのを覚えています。
ずいぶん長く下りていきました。本当に穴を下りていったとしたら、ずいぶん深くまで行ったんじゃないか、というくらい。真っ暗だからよくわからなかったけれど。
ここまで、という所で、梯子からぴょんと飛び降りました。そこからまた横穴が続いています。1〜2m先の左側に窓のような穴が空いていて、明るい外が見えました。その穴の前に、1人用の座卓くらいの盛り上がった部分があしました。角が丸くなった長四角で、上の面はきれいに平ら。
私はその土の台の所に行き、その上で膝を抱え込むような姿勢でしゃがみ込みました。そして、左側を向くと、やはり荒野が広がっています。夕焼けなのか赤土のせいなのか全体的にオレンジ色っぽくて、埃っぽく霞んでいるような感じ。
その時のことを思い出すと、外の光景と丸まっている自分の様子の両方の映像を覚えているから、両方の視点で見ていたのかもしれません。
土の台の上でしばらく丸まっていた後、「絵を描きたい」と思いました。そこで、
「無意識が絵を描くと言っています」
とJ先生に言いました。
目を開けて、紙と鉛筆を持たせてもらいました。
すぐに描き始めました。と言っても、何かの絵を描いたわけではありません。グルグル、グルグル、なぐり描きを始めたのです。“意識”の方は「なんでこんなことを」と思いながらも、口出しをするとまた無意識がすねると思って、なるべくよけいなことは考えないようにして、勝手に動く手と描かれていく線を見ていました。“無意識”は、小さい子どもがするように、それはそれは楽しそうに(と感じた)なぐり描きをしていました。
そして、たっぷりとなぐり描きをしたら、手は鉛筆を離しました。“無意識”は自分のやりたいこと(やりたかったこと)をやりたいだけやって、十分に満足している。そう感じました。そのことをJ先生に伝えて催眠を解いてもらい、その回のカウンセリングは終わりました。
ちょうどそのしばらく後だったと思うのですが、私の母が「こんなものが出てきた」と、レシートに描いた絵を見せてくれたことがありました。レシートの日付から推測するに、私が2歳2ヶ月の時に描いた絵だろうと思われました。それは、目も口も胴体もみなそろっている人の絵。教職課程で学んだ「描画の発達」によれば、2歳はまだ「なぐり描き期」。どうも私は、何かの間違いでなぐり描きを十分にしないまま「絵」を描くようになってしまったのではないでしょうか。この最初のつまずきの結果か、その後の「描画の発達」は惨澹たるものでした。催眠療法の中で“無意識”は、子どもの時にできなかった「なぐり描き期」を取り戻そうとしたのではないかと思います。

ここまでが、10数年前に書いた文章を基にして書いたもの。実は、以前の文章では、「無意識くん」と「無意識」を擬人化して書いていたところがあった。そかは今回「“無意識”」のように“”を付けてある。以前の文章の時には、先に「無意識くん」の説明をしてあったから、そういう書き方をしたのかと思うけど、私が自分の無意識を「無意識くん」と呼ぶようになったのは、なぐり描きをした回よりも後だったように思う。
それがいつからだったのかは覚えていない。最初の頃は、カウンセリングで催眠をかけた時に無意識が出てきて絵を描いて、その時に無意識が感じたり思ったりすることがテレパシーのように私にもわかる、というだけだったのだと思うけれど、そのうち、普段の生活の中でも「“無意識”がいる」ことを感じるようになって、それでその無意識を「無意識くん」と呼ぶようになったんじゃなかったかと思う。
次回は、普段の生活の中での無意識くんとの付き合い方の変化について、書こうかな。